リレーエッセイ 人と空間・私の視点 29

周囲と美しく調和した必然性のある色彩提案 河野 万里子
 色ほど簡単に取り入れられ、それでいて劇的な変化を与えるものはありません。例えば、ふだん地味な格好をしている人が赤のスカーフを巻いただけで、周囲に与える印象は一変します。無意識に選んだとしても、情熱的でエネルギッシュという赤色のメッセージがおのずと発せられてしまうんですね。しかも香りや音などと同様、それは人間の本能的な部分にまで響きます。その意味で配色というのは、伝えたい印象やイメージを具現化する、最も効果的でインパクトのある手段だといっていいでしょう。
 ただ正直いって、あまりに無頓着な色遣いが目立ちますし、好き嫌いや感覚のみで色を選ぶケースが多いように感じます。プロのインテリアコーディネーターでさえ、きちんとしたロジックの裏づけによって説得できる人は少ないのではないのでしょうか。なぜこの色を遣うのか、この配色であるべきなのか。色の持つ力を最大限に活かすためにも、必然性のある色彩提案が必要だろうと思うのです。
 ドイツに住んでいたときに、そのことを痛感しました。店舗の看板から庭に植えられた花、カフェテリアのテーブルクロスに至るまで、街並みのすべてが、あたかも厳密に計算し尽くされたかのように配色され、じつに美しい景観を作り出している。景観に関する規制が非常に厳しいこともあるんでしょうが、この街並みにはどんな色が美しく映えるのか、道行く人の目をどう楽しませるか、住民の一人ひとりが細やかな気配りをゆき届かせていることに感心したものです。
 日本の場合は、閑静な住宅地に真っ赤な自動販売機が平然と置かれていたり、商業施設でも多様な文字色のPOPが氾濫していたり、ひと言でいえば“邪魔な色”や“自分のためだけの色遣い”が多すぎるんですね。数年前に賃貸マンションの外壁を塗り替える仕事に携ったんですが、そこでもオーナーや業者さんの意向は、ガラッと雰囲気を変えたい、もっと注目度を高めたい、といったものでした。その気持ちもわからなくはないんですが、インテリアはまだしも、せめて景観に影響をおよぼす外壁やエクステリアの色くらいは、自分の満足感にとどまらず、社会環境の一部という意識を持って考えるべきではないでしょうか。
 私がいつも配色において心がけているのは、「変化」と「統一」のバランスを取ることです。浮いてしまわず、埋没することもなく、いかに周囲の景観と調和した色遣いを提案するか。そこで住まう人、働く人、訪れる人、そして道行く人…すべての人の心に美しく響く色彩のメッセージを届けることこそ私の仕事だと考えています。

マンションの外観
マンション共用部
暗くなりがちなマンション共用部には、爽やかなブルーやグリーンを採用
色イメージ写真
メリハリを効かせると同時にやさしい色合いで
景観との調和を図ったマンションの外観
色の持つ力を最大限に活かすために、伝えたい印象やイメージを配色によって具現化


河野 万里子氏   こうの まりこ……… 色彩コンサルタント。色彩舎主宰。
企業や店舗、マンション、商品などのカラー監修を行う。
また大学でのカラーコーディネーター検定対策講座を受け持つとともに、
営業職や専門業種を対象とした色彩研修の講師を務めるなど、
カラー教育も積極的に推進する他、
パーソナルカラー診断や主婦向けの再就職支援セミナーをはじめ、幅広く活躍。