リレーエッセイ 人と空間・私の視点2

木と木が、人と樹が寄り添う家具づくり。 藤本増夫
リレーエッセイ Photo 1
 モノづくりには、企画・設計者と造り手との対話がもっと必要ではないか。そんな思いから「樹望塾」をはじめて5年になる。デザイナーに素材の知識をもってほしいし、造り手の声を伝えたい。また家具製作という木を消費する立場にいるからこそ、自然環境のことを多くの人に知ってほしいとも思う。
 いわゆる「柾目信仰」によって、柾目板をとった残りや小径木は商品価値が下がり、製品化されず処分されるものも多い。勿体ないし可哀相な話である。私はそんな木も充分に活かしてやりたくて、成形時に出るオチの部分を継いでテーブルの脚にしたり、ブナの間伐材でソリッドのテーブルを作っている。リレーエッセイ Photo 2小径木は反って扱いにくいといわれるが、そんなことはない。例えば倉庫から工場へ運んだら、そこの空気に1日か2日慣らしてやる。落ち着いたころに断裁して、次の行程までまた少し休憩させる。そんなふうに素材の気持ちになって扱うと、どんな癖のある木でも加工できるものだ。一本ずつ木目も違い、生まれ育ちも違う木と木が仲良く寄り添いながら、ひとつのテーブルができる。いわゆる「反りを合わす」モノづくりである。
 木の肌ざわりはなぜ心地よいのか。木はもともと植物がタンパク質やアミノ酸合成をしながら作ってきた組織だ。私たち人間も生物学的に見れば、植物と同じではないが、やはりタンパク質やアミノ酸合成をして組織を作っている。木と人と、お互いにまったくの異物ではないから、温かみを感じるのだ。木の表面に塗る塗料も同様である。昨年ある老人ホームの内装や家具の塗装にミルクペイントを使ったのだが、これが色も風合いも肌触りも非常にやさしい。ミルクペイントは牛乳に石灰と顔料を合わせた塗料で、主成分はやはりタンパク質だ。だからウレタン塗料のような冷たさがない。ひとつずつ仕上がりが微妙に違うので愛着がわくし、時間の経過とともに表情が変わって、何ともいえない味が出てくる。
 「反りを合わす」というのは、もちろん人と人も同じこと。リレーエッセイ Photo 3いろんな立場、いろんな考えの人が集まってディスカッションを繰り返さないと、本当にいいモノは生まれない。いま家具や空間づくりには、バリアフリーやユニバーサルデザインの視点が求められているが、すべての人に合うデザインというものが果たしてあるのだろうか。高齢者にしろ障害者にしろ、個々の求めるものはそれぞれ異なるし、マスプロダクトの考え方では対応に限界がある。デザイナーと造り手と使い手が「反りを合わせて」試行錯誤を積み重ねていくことが、真のユニバーサルデザインに結びつくものと考えている。
 


  藤本 増夫氏 ふじもと ますお…… 家具職人。(有)藤本木工所代表。「樹望塾」塾長。「福祉と住環境を考える会」会員。「ATCエイジレス工房」のメンバーとして高齢者や障害者の住環境を提案。樹望塾の開催(月1回)ほか、講演など幅広く活躍。木と海とヨットをこよなく愛し、Sailability Osaka 代表世話人として障害者セーリングにも取り組んでいる。
◆樹望塾ホームページ http://www.kiboujuku.com/